'カードファイト!! ヴァンガード PRESENTS
NJPW 40th anniversary Tour G1 CLIMAX 22 ~The One And Only~
2012/8/12@両国国技館'超満員札止めの両国国技館。これが当たり前の風景だった。昭和の時代、猪木が中心にいて、ブロディに始まり、IWGPがあり、UWF、サマーナイトフィーバー、闘魂LIVE、TPG(たけしプロレス軍団)、長州がいた。そしてG1が生まれ、普通に両国で連戦していた。座布団が舞った。暴動も起きた。全ては超満員の熱狂が産み出したものだった。そう、プロレスに熱狂していた時代が確実にあった。その時代に私は思春期を過ごし、今なお鮮烈に当時の思い出が脳裏に焼きつき、血の一部となって流れている。プロレスが熱を失ったきっかけは明らかにリアルファイトを標榜した格闘技興行によるものだった。UWFの分裂形となったリングスやパンクラス、UWFインターを通り越し、K-1とPRIDE、2つの大規模プロモーションが完全に四角いリングのあり方を変えてしまった。申し訳ないが、かつて生活の一部だったプロレスは地上波テレビの深夜で垣間見るほどになり、心も体も完全にリアルファイトに振り切っていた。プロレスと言えるものはアメリカのWWEにスライドしてしまった自分がいた。それでもG1は両国で続いていた。1.4の東京ドームも続いていた。継続は力なり。新戦力も育っていた。どん底になろうが新日本プロレスは生きていた。細分化を重ねたプロレス業界において、新日本プロレスは盟主の座を守り続けていた。やがて、プロレスを不況に追いやった張本人のK-1とPRIDEが自滅し、日本のメジャーリングは新日本プロレスにゆだねられることになった。棚橋、中邑、真壁、後藤の”四天王”が牽引してきた21世紀はじめのディケイドの新日本プロレスに全日本もノアも絡み、ほか団体の主要選手も定期参戦していた。言わば事実上のプロレスオールスター戦が新日本で実現していた。東日本大震災のチャリティー興行として企画された『ALL TOGETHER』の音頭を取ったのは新日本。格闘技が地上波テレビから姿を消し、行き場を失ったオールドファンの多くは一番信頼のおける場所に里帰りをしたのではないか。私自身こそそのひとり。目の前にある今の新日本プロレスに少なからずの違和感を覚えながらも、徐々に理解し、受け入れ、楽しみ始めた自分がいた。今では当たり前のことだが、「プロレスと格闘技は別物」。これを大前提にリング内外で繰り広げられるライブパフォーマンスとストーリーをエンターテイメントとして受け入れられることができるか否かで、今の新日本プロレスを楽しめるか否かが決まってくる。”WWE化した”と言えば話は早いが、日本的なエッセンスを大事にベースにしている。その顕著な企画が『G1クライマックス』のリーグ戦。長期間に渡る連戦の星取り結果で優勝の行方が日々変わり行く。新日本のみならずこのリーグ戦は日本プロレス界が創世期以来続けてきた定番中の定番企画。そして日本で最大規模のリーグ戦・G1はとことん盛り上がった。第一試合からどっかんどっかん沸きまくり。冷房がかかっているのに汗が止まらない。ここに来て騒がなくてどうするの、とばかりにとにかく大歓声が鳴り止まない。かつての昭和時代とはまた違った質の盛り上がり方は純粋に楽しい。リーグ戦の星取り予想がまた面白かった。それぞれのブロックの最終戦に勝った者が優勝決定戦に進む法則もまた定番なのだ。オーナー会社がブシロードに変わってからの新日本プロレスは世間への露出が明らかに増えた。もともとブシロードは広告を大胆に展開する会社だが、駅貼りポスター、山手線ラッピングなどの交通広告、地上波テレビ向けの自社CMへの新日本レスラー出演と力技を連発。ファンイベント開催や展示会への出展という新手法も見せた。極めつけのG1最終日当日夜の地上波中継枠は番組スポンサーになることで実現した。本業のカードゲームで新日本プロレスをひとつのコンテンツ化し秋にリリース。会場ではプロモーションカードが配られた。21世紀の正しいプロレスプロモーションの手本になるかどうか、とにかくブシロードは新日本プロレスのためにお金を使っている。プロレスブーム復興への道にブシロードは本気で取り組んでいる。ブシロード体制の申し子オカダ・カズチカと、第2回G1以来の外国人優勝戦進出を果たしたカール・アンダーソンによるファイナルマッチを誰が予想できただろうか。四天王にもベテランにも頼らずに年間最大イベントのメインイベントを若い2人に任せることができたことは新日本プロレスの勢いを物語っている。人材育成が機能している。そしてオカダとアンダーソンが見事なまでに優勝戦にふさわしい攻防を演じてみせた。大満足なり、2012年、22回目のG1クライマックス。しっかりと新日本プロレスの将来を観たり。両国国技館は実に幸せな空気に包まれていた。次の仕掛けも用意済みだ。かつて”新闘魂三銃士”と呼ばれたうちのひとり、柴田勝頼を招聘し、さらに格闘技界上のプロレスラー・桜庭和志まで引き寄せてみせた。優勝したオカダの視線は早くも来年1.4の東京ドーム大会に向いていた。次があり、その次もある。長いスパンでのストーリー作りがさらなる期待感をかき立てる。WWEはザ・ロックvsジョン・シナのレッスルマニア対決を1年がかりで煽り続けた。1.4が日本のレッスルマニアならばもうドラマは始まっていてもいい。木谷会長は1.4のゴールデンタイム中継を目論んでいるという。”俺たちのゴールデンタイムプロレス”、再び。本気も本気。カードゲームの評判も影響するはず。世間から新規ファンを取り込んで、両国国技館に続き東京ドームをもあの頃の超満員状態にしてみせてくれるのか。してみせてほしい。ブシロードを歩んで行けば夢の続きが待っている。
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